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藤原学園の『年中夢求』日記

〜今日も顔晴るみんなへ〜

びわ湖とカスピ海

森山’s Honey Bucket 24

 

 僕は小学4年生になった春、藤原学園に入学しました。

今から40年も前になります。

 学園の4年生としての経験のうち強烈な思い出となっているのが次の3つです。

①初めて行った小豆島夏合宿、人生初のテント宿泊で、カミキリムシに背中を噛まれたこと。

②お豆腐作りが楽しくて楽しくて、ご飯のおかわりを5杯もしたこと。

③社会科の時間にうんと恥ずかしく悔しい思いをしたこと。

 

 今日はその三つ目のお話を書かせていただきます。

 

 如先生(ヒゲ先生の弟先生)が、クラスの皆に

「みんな世界で一番大きな湖はなんというか知ってますか?」と尋ねられました。

 

 今思えば、きっと先生は「そんなの知らない…。」という子どもたちに、自分たちで索引を引かせ地図を調べさせながら、世界のスケールを確かめさせたかったのでしょう。もちろん当時の僕はそんな先生の意図など微塵もわかりません。

 

 前の年、近所の遊び仲間「ゆうちゃん」のおっちゃんに連れて行ってもらった海のような湖「びわ湖」が頭に浮かんだ僕は、誰よりも先に正解を発表し英雄になるべく「ハイハイハイハイ!!!!」たいそう元気よい声(うるさい声)で当ててもらえるようにアピールしました。

 「はい、じゃあ森山君。」先生に当てられた僕は、得意げに起立して自信満々「びわ湖!」と叫びました。

 

 「君はあわてものだなあ…。先生が尋ねたのは世界一の湖だぞ。」

如先生はにっこりあきれ顔でそうおしゃいました。

 

 先生の言葉と同時にクラス中から大きな笑いがおこりました。

僕には一瞬何が起こったのかわかりません。先生のおっしゃるように、問い掛けをちゃんと聞いていなかったわけでも、あわてていたわけでもありませんでした。自信を持って答えた「びわ湖」だったのですから。

でも皆は笑っていました。とても恥ずかしい状況に自分はいるのだ、そのことだけを感じていました。

 

 しかし事態はそれだけでは済みませんでした。

 

 先生はもう一度先ほどと同じ質問を皆に投げかけられました。

そのとき僕の斜め左後ろにすわっていた吉川君が小さな声で「はい。」と言いました。

反射的に振り返ったぼくは、彼がたいへん落ち着いて手を挙げていることがわかりました。

彼の姿勢はよく、手はまっすぐに挙げられていましたし、何より「はい。」を連呼することはありませんでした。

 

 如先生が「ほう、では吉川君。」と指名されたとき、

彼は「はい。カスピ海です。」と静かにでもどこか堂々と答えました。

もちろん僕には聞いたことも何もない名前です。

 

 「偉い!!吉川君。よく知っているね!!」先生は絶賛されました。大絶賛でした。

「へー。」「すごい。」「かしこ~い。」10人を少し超えるくらい生徒がいた教室は、たちまち皆が口にする吉川君への褒め言葉で満たされました。 

 

 くやしくて、くやしくて。

 

 誰一人「吉川君は森山と比べて偉い」とか「森山と比べて物知りだ」とか言ったわけではありません。「森山はアホや」と声が聞こえてきたわけでもありません。

 如先生もクラスの皆もただ「吉川君がすごい」と認めていただけなのです。

 

 だけれども、くやしかった…

 

 

 このことがきっかけになって僕は毎日のように「地図を見る子」になりました。そのうち地図を使った作業中心の学園の社会科の授業が面白くなり、いつごろからか地図ばかりではなく、社会科全体への興味が増していきました。興味を持ったからこそ熱心に取り組んだと思います。

 小学校高学年~中学時代~高校そして大学受験、大学での研究。社会科という学問は自分を支える芯柱のようになりました。 

 

 

 新年度の授業もいよいよ本格スタートしました。

学園で得られた体験が、やがてその子その子の貴重な支えとなっていくことを夢に描いて、

可愛い子たちと日々を過ごして行きたいと思います。



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