藤原学園の『年中夢求』日記

〜今日も顔晴るみんなへ〜

ドラマ《後編》

森山's Honey Bucket 330

(前編からの続き)


2016年度最終回の実験学校2日目の朝を迎えた。


運命の1日の始まりである。



6:30起床。


昨夜のミーティングが長引き、どのスタッフも瞼は重い。



まず、この日最初の行事である「日の出の観測」のため東の海岸に出かける。


この時刻の風は思いの外優しい。

確かに、昨日のように暴れる風ではない。


美しく上る朝日は、あっと言う間に眩しさと暖かさを子どもたちに届けた。


そのとき、眼下に
神戸港を夜中に発ったジャボフェリーが滑り込んで来るのが見えた。


定刻どおりだ!

これなら昼便もきっとうまくいく!
当初の計画通り大阪に戻れる…

ふと暖かいものを感じた。




餅つき

フィラメントを作り、輝かせる実験

片付け・昼食

表彰式


などの時間を子どもたちと楽しく過ごしながら、

いよいよ昼便のフェリーの運航状況を船会社に確認する頃となった。


今も風は穏やかだ…


「問題ありません。船は定時運航しています。

定刻通り高松東港に入港出来ます!」

船会社の方の声も明るく弾んで聞こえた。



ほっ…

よかった…

元の計画通りの帰阪が決定した瞬間だった。




閉校式を終え、約30名の高松移動班が、皆に見送られて「星くずの村」を後にした。


子どもたちを坂手港の待合所に引率した僕は、
岬の先に現れるだろう船影を一刻も早くこの目で確認したくて、ひとり岸壁に駆けた。


そしてそこに確かにフェリーの姿を確認した。

ほんとうに嬉しかった。

定刻に高松に行ける。

そして…17:00の高速バスにも確実に乗れる。




僕の心のどこかに
「おいおまえ、最後まで何があるかわからんぞ…」
と、一瞬悪魔の囁きが聞こえた気もした。



が、ちょうどその時、船会社の社長さんが僕に声を掛けて来てくれた。(昨日からずっと相談に乗ってくれた方だ。)


「良かったですね…

実は今日の船長さん腕が違うんですよ。

僕は、搭乗名簿でこの船長の名前を見た瞬間に、

どんなことがあっても、ちゃんと定刻に来るなあ…

と思いました。」


とニコニコ嬉しそうに話された。




安心は確信となった。




高松までの船は昨日とは打って変わってなめらかに海を進んだ。

どの子たちも嬉々としている。

組み立てたロボットで対戦ゲームをしている子が多い。

空いている船内、これくらいの賑やかさなら許されるだろう…


僕の関心事は

一般の方も乗り合わせる高速バス内で
いかにこの子たちが周りの方に迷惑を掛けることなく、3時間余りの時間を過ごせるか…にシフトしていた。


あと10分程で高松に入港というタイミングで、子どもたちを高速バス組と高松解散組に分けて、それぞれに諸注意を聞かせた。



あとは、タラップを降り、送迎バスに乗り込むだけだ…












送迎バスがいない!

いつもそこにいるはずの送迎バスが無い!




船着き場にアナウンスが流れた。

「本日送迎バスは16:45発となります。」

「お急ぎのところ申し訳ございません…
本日は高松駅からの送迎に先に向かっており、こちら高松東港から駅までの送迎は16:45発を予定しております。」



耳を疑った。

目の前が白くなった。




ここから高松駅までバスの所要時間は10分。
渋滞している場合もある…

高松解散の保護者の方へ子どもたちを手渡し挨拶をする時間も必要。

送迎バスの降車場所から高速バスターミナルまでの移動…子どもの足で少なくとも5分。


これでは17:00発の大阪行きの高速バスに間に合わないではないか!

やばい

これはまずすぎる





一目散に案内所に駆けた。

アナウンスの内容を再確認し

こちらの事情を矢継ぎ早に伝えた。



何がなんでも17:00発の高速バスに乗らねばならないのだと。


そして、船を降りるこの瞬間まで、送迎バスの運行についての断りがなかったことを責めた。


しかし、文句を言ったところで事態は好転しない。間に合わせる手立てを考えつくまま彼女らにぶつけた。


別のバスを手配して欲しい!

送迎バスを高速バスの乗り場近くにつけて欲しい!

運輸関係同士の繋がりを活かして、高速バスの出発を暫く待ってもらえるよう交渉して欲しい!


返答は…

「それも、これも出来かねます。送迎バスの到着を待っていただく他にない…」


らちがあかない。



タクシーに分乗させる方法があるかと、あっ君に確認してもらったが1台も溜まっていない。

タクシーを呼び寄せようとも、30人を運ぶための6~7台を瞬時に召集することは不可能に思えた。



僕自身、高速バスターミナルに連絡を入れ、事情を話した。

が…

「他の乗客の方がおられますので、定刻に発車せざるを得ません…」とにべもない。


しかし最後にこちらの窮状を見るに見かねてか、


「万が一は、ご乗車の方お一人でも出発までに間に合ってお越しいただければ…」と教えてくれた。


そうか…
もし全員が出発予定時刻に揃っていなくても、一人でも間に合って、運転士さんに懇願すれば、出発を待ってくれる可能性があるということか…




そんなことを考えつつも、僕はもし高速バスに間に合わなかった場合という最悪の事態への対処も並行して考えないといけなかった。



どのような手段で大阪に移動する?

どうすればいい?

少しでも早く難波に子どもを届ける方法は?

どうすればいい?

我が子を待ち侘びる親御さんの気持ちは?

どうすればいい?


にわかには出口の見えない どうすればいい? が頭に溢れた。



地獄を味わった。










やっと送迎バスが来た。


大きな荷物を持った子どもたちを急かせて乗車させ、バスの運転士さんに急いでもらうよう頼んだ。


送迎バス内は他の乗客も含めほぼ一杯だった。


非常識承知で大きな声を出した。

前後ろに分かれて立っているスタッフに、これから担っていただくべき役割について頼まねばならなかったからだ。



「高松組の解散は出来るところまであっ君、後はゆっちろう君に任せたい!(ゆっちろう先生は大学のある広島へ別便で帰る)。」


「イクちゃんとサヨちゃん子どもたちの引率お願い!」


「バスが出るまでに、一人だけでもそこに到着しておれるよう、僕はとにかく一目散にバスに向かうから!」


そんなやりとりのあと


最後に子どもたちに向かって


「すまないが、高速バスに向けひたすら走って欲しい!君たちの走りに最後はかかっている!」


と頼んだ。


「そうそう、高松解散組の子たちは走らなくっていいからね…」



子どもたちも自分の取るべき行動を理解してくれた…と信じた。





バスはたくさんの赤信号に捕まった。

携帯の時計と道路の状況を視線は何度も往き来した。






16:56

バスは降車場についた。

運転士さんに礼を伝え、扉が開くと同時に駆け出した。



待ってくださっていた高松組の保護者には大変失礼だったが、走りながら礼をし、「高速バスが…」と説明にならない説明を駆け抜けざまにお伝えした。



2分程全力で駆けたはずの僕だが、未だ道は残っていた。

あの角を一刻も早く回らねば…

あそこを曲がれれば高速バスターミナルだ…


もつれそうになる足
早鐘を打つ胸
諦めてはならぬ…という心の叫び





そんなとき、後ろから軽やかな足音が近づき、そして疾風の如く僕のそばを駆け抜けて行った。



「翔理!」



全力で駆け抜けて行ったのは、実験学校生の最年長高2生の男の子だった。


小さな頃から長年実験学校に通ってくれた彼が、

今、今回の実験学校の成功のために駆けてくれている…


「バスの扉が閉まるまでに駆けるのは自分だ!」

彼の想いが瞬時に伝わってきた。



無性に嬉しかった…

感謝が満ちてきた…











お陰で間に合った。





運転士さんに遅れた詫びを伝えた。

「大丈夫ですよ…」柔和な微笑みが嬉しかった。


チケットセンターのお姉さんにも「間に合われて良かったですね…」と声を掛けてもらった。

さっきの「一人でも間に合ってくだされば…」の秘策を教えてくれた方だったようだ。




「翔理、ありがとう。」

カラカラの喉から出た声は、彼には聞こえなかったかもしれない。



重い荷物抱えて最後まで走りぬいてくれた小学生のみんな、ありがとう。

一緒に走ってくださったお母さん、ありがとうございました。




かくして、我らを乗せた高速バスは定刻を過ぎて動き始めた。



心配してくれていたのだろう、高松解散の男の子とお父さんが近くまで来て、バスに大きく手を振ってくれているのが見えた。

たしかに乗れたよありがとう!




みんなに感謝していたら、ふと
さっき激戦を交わした港の受付の人に
間に合った報告をしておこうという気持ちになった。



電話の向こうのその人は、とても喜んでくれ、

「どうかお気をつけて…」と言ってくれた。

ありがとう…がまたひとつふえた。




暫くあとで報告を受けたのだが、高松解散の保護者の方が、挨拶を試みるあっ君先生に

「先生は早く子どもたちのところに行ってあげてください…」と声を掛けてくださったそうだ。


あっ君のあとを引き継いだ、ゆっちろう君がたいへんしっかり高松の保護者の方に報告とご挨拶をしてくれたとか…

やるな…ゆっちろう!




皆さんに支えられ、応援をいただき、2016年の実験学校も無事終了できた。




ありがとうございました…




という、長いドラマでした。



(今までの僕のブログ中最長の文でした。
前・後編共にお付き合いくださった方々に、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。)








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