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藤原学園の『年中夢求』日記

〜今日も顔晴るみんなへ〜

出会い

森山’s Honey Bucket 63



近鉄電車の最寄駅まで、チャリンコ最速走行で15分。

たいていは息咳切らしながらのダッシュだったが、 

いくぶん余裕のある朝は、自分で作詞・作曲した曲を口ずさみ、

「なかなかの名曲だ!」と悦に入りながら、ペダルをこいでいた。 

 

そんな高校時代、16歳の僕は、

今なお、「一生の宝を得ることができた」と神に感謝するほどの「友人」に出会った。

 

友人の名は藤井隆。(同姓同名だが、吉本の芸人さんとは別人物だ。)

 

彼は当時から、とびきりの秀才であり努力家であった。

 

ただ秀才であるだけならば、凡人である僕の周りにはたくさんいた。

しかし、彼ほど偉そうぶらず、周りの人間に親切で、面倒見が良く、

かつ、どんなときも変わらぬ自然体でいる人物に、

僕はそれまでの人生でめぐり合ったことがなかった。

 

 

あくる日からテストが始まるというぎりぎりの日に、

わからないところだらけで困り果てた僕は、

「藤井、これ教えてくれへん?」と尋ねた。

ここで言う「これ」が指すのは「この一問」ではなく、「この単元(すべて)」だ。

 

彼は決してNOとは言わず。

「森山!あかんやんけ!」と言いながらも、

「ほんなら説明するで。」と解説を始めてくれる。

 

 

1-Hの教室。
生徒ひとりに先生ひとり。僕の席は中央最前列。

藤井先生は黒板を大きく使い、丁寧な解説で僕のための授業を進めてくれるのだ。


 

彼の説明はたいへんわかりやすく、しっかり聞いていると、

「この単元はこういうことだったのか…」と初めて気づくことができた。

普段僕の不理解をものともせず爆進する数学の先生の説明とは天と地の差があった。

(もちろん悪いのは僕だけれど…)

 

 

僕にとって翌日はテスト。ということは藤井にとっても明日はテスト。

しかし彼は僕を急かすことも、慌てて切上げようともせず、

ずっとずっと付き合ってくれた。

 

いつのまにか、教室の壁が夕日色に染まった。

 

やがてすっかり外が暗くなって、さしもの僕も彼のことが気の毒になってきた。

「ありがとう。めっちゃわかった…」とお礼を言い、二人で教室を後にする。

 

でも幸い?僕は八尾、彼は国分。どちらも近鉄大阪線の同じ電車での帰宅だ。

始発駅からの乗車なので並んで座ることができる。

 

おもむろにカバンから数学のテキスト『オリジナル』を取り出した僕は、

「なあ藤井もうちょっとええか?」性懲りも無く頼んでしまう。

 

「ええで。」やはり彼の返事にNOは無い。

 

揺れる電車の中ですら彼の説明はよくわかる。

 

まもなく八尾駅に差し掛るのに、説明が途中の問題があった。

藤井は「これはやってしまおう。」と八尾駅のホームに一緒に降りてくれた。

 

茶色のペンキが塗られた木製の椅子。

頭の上には裸電球が灯っていた。

 

結局何本かの「国分行き」をやり過ごすほど教えてもらい、

ついに彼が電車に乗り込んだとき、

僕は恋人を見送る女の子のように、彼に手を振り続けた。

そして遠ざかる電車がちっこくなるまで、ホームにいた。

 

「先生」という職業に憧れを持つようになったのは確かにこのときからだ。

 

どんな先生?

藤井先生のように「生徒に付き添う先生」だ。

 

 

 

人生の指針を僕に与えてくれた彼は、

今、医師として日々多くの患者さんの命と向き合っている。

 

「藤井先生にならば命を預けられる…」

そんなふうに言ううちの母親も、今彼の病院の患者の一人だ。

 

「すまんけど藤井、お母ちゃんもよろしく!」

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